<第七回>

♪知ってる神社を〜、歩いてみたい〜
     ♪どこか近場で〜 (取材を)すませたい〜


キツネ
「んむ、神社探訪も第七回目を迎えたのじゃ
 次回は末広がりかや? めでたいではないか」

恭平
「休載なく毎週続いてるのは良いんだが……
 そろそろ取材費が苦しくなってきたぞ?」

キツネ
「のっけから不景気な話は止めてたも!」

恭平
「有馬温泉で、キツネが銘菓をドカ喰いしたせいだろ?
 イタズラ九尾の食費で、俺のバイト代が消えたんじゃないか」

キツネ
「どんな苦境にたたされようと、
 あも(←ゴハンの事)さえ喰っておれば大丈夫であろう。
 そして和田神社じゃ」

恭平
「は?」  

キツネ
「立派な鳥居じゃのぅ。
 前代の鳥居は、畿内でもっとも大きかったと仄聞する」

恭平
「こ、こら! どのへんが”そして”なんだ?
 唐突に参拝して、話題を逸らそうとしてるだろ?」

キツネ
「ぶみっ、脈絡はちゃんとあるのじゃ。
 スタッフに和田さんなる人が居るから、和田神社へ参ったのじゃ」

恭平
「えー……?」
   

キツネ
「本宮とか、そこらへんはどーでもよい。
 やはりお稲荷さんが一番なのじゃ」

 すすすぅーーーっ ← キツネが飛んで移動している

恭平
「ど、どうでもいいのか?」
   

キツネ
「商売繁盛の高倉稲荷じゃ。
 線香の匂いと朱蝋燭の灯が風雅じゃのぅ。
 この社は、京都の伏見稲荷神社より勧請―――」
 

恭平
「なんだ?
 稲荷社の奥にまだ何か……
 うわ!? 気持ちわるっっ!!」

キツネ
「こりゃ、口を慎めい。
 そこな巳塚におる御仁は、海より参った神吏の白蛇じゃ。
 さすがに、ここまで数が揃うと壮観じゃのぅ」
 

恭平
「すごいな、ご神木の根元にまで、白蛇が奉られてる」

キツネ
「珍しくなかろう?
 星稜の天狐も、コンペイトウの樹の根元におるではないか。
 もっともワチ等は海ではなく、天に属するがの」

恭平
「あ、あの巨木か……」

キツネ
「ほっほっほー、ネタバレ故にこれ以上は喋れぬ。
 和田さんはもう充分なのじゃ、さっさと次に連れていってたも」

恭平
「ゲーム本編の事はともかく、
 せっかく和田さん絡みでここへ来たのに、もういいのか?」

キツネ
「ええーい、和田ごときに、いつまでも構ってはおれぬ!
 チビスケは大人しく、ワチにあいづちをうっておればよいのじゃ!」

 どろろーん ← 瞬間移動の音    

キツネ
「ぬんっ、合槌稲荷明神〜」

恭平
「……。
 ………最近、思うんだが、このコーナーてシュールだよな」

キツネ
「小さな社と侮ってはならぬ。
 刀匠宗近が、稲荷の神助によって鍛えし名剣・小狐丸が―――」

恭平
「こぎつねまる???
 またキツネの自慢話になりそうな気配だ。さっさとお参りをすませよう」

 ぺこぺこ
   ちゃり〜ん
      パンパン


恭平
「なむなむ……
 尊大な九尾キツネが、もっと控えめな性格になりますように」

キツネ
「ぶ、ぶみぃ! 失敬な!
 ワチの仲間に頼んで、そんな無礼な祈願は、折願してやるのじゃ」

 すすすぅーーーっ
     てくてくてく……
   

恭平
「ぎょ!?
 ごく普通の住宅地に、いきなり連鳥居が―――」
 平五郎稲荷神社だと?」

キツネ
「平五郎殿ー! 遊びに来たのじゃ。
 よんどころない事情で、力が発揮できぬワチにかわって、
 チビスケをシバキまわしてたもー!」

恭平
「ひどい! これ以上、俺をどうしようと言うんだ!
 俺は精神的に、充分すぎるほどキツネに蹂躙されてるっていうのに!」  

キツネ
「むにょ? 留守らしいのぅ。
 墓場にでも行っておるのじゃろう」

恭平
「ふ、不吉な」

キツネ
「何を引いておる?
 神吏は人営とともにあるのじゃ。
 塋域(墓地)にキツネの巣穴があろうと不思議ではない」

恭平
「65基、66基、67基……」

キツネ
「ありがたいワチの話を聞かずに、鳥居を数えるのは止めてたも!」

恭平
「だって怖いじゃないか、そういう話は」

キツネ
「神と人は同じものじゃ。怖いと感じるのは心の問題であろう。
 ここより山裾へゆけば、そういう稲荷がおる」

 てくてくてく
   さくさくさく……
 ←腐葉土の上を歩いている  

キツネ
「ほれ、紋三郎稲荷大明神じゃ。
 狐狸よりも人を化かすのがうまかった、武士の稲荷じゃ。
 もっとも縁起については、所説あっても定説はないがの。
 ご近所の山裾の社には―――」    

キツネ
「五八朗稲荷大神も鎮っておるのじゃ」

恭平
「……ひょっとして今回は、人名ぽい稲荷を巡ってるのか?」

キツネ
「てひひひ、バレてしもぅたかや」

恭平
「ま、キツネの探訪らしくていいか。
 よし、分かったから麓へおりよう。
 秋口の山に居たら、木陰ばかりで冷え込んでしまうぞ」

 さくさくさく
    てくてくてく……
 

キツネ
「おなじく宅地のなかにある、姫太郎大明神じゃ」

恭平
「変な名前だ。
 逐語訳すれば、恭平子や由美之介か?」

キツネ
「太郎稲荷は五穀豊穣の神吏じゃ。
 姫は、単にこの地が姫路に近いから冠しておるのやも知れぬ。
 あるいは、姫太郎という名は、女の子と男の子を表しておるのかのぅ?」

恭平
「人が決めていいのなら、
 俺はそれ全部をひっくるめた意味として、解釈してやろう」

キツネ
「んむ、間違っておらぬ。
 はてさて、チビスケは次の社をどう読むのかや?
 ここより南に足を進めれば―――」    

キツネ
「清澄稲荷大明神じゃ」

恭平
「やっぱり住宅街だな」    

恭平
「……って、人名じゃなくなってるぞ?」

キツネ
「ぶ、ぶみ、更に西へ赴けば―――」    

キツネ
「路地裏にある、大歳大明神じゃ」

恭平
「キツ―――」

キツネ
「東北へ―――」

恭平
「おいっっ」    

キツネ
「萬国大明神じゃ」

恭平
「へぇー、生活道路のすぐ傍に、ぽつんと建ってるな。
 社殿の建築様式と、正面の両部鳥居から類推するに、神仏習合の社だろう。
 そして、さっきから人名は全然関係ない」

キツネ
「ほっほっほー、連鳥居は見栄えがよいよってな、ちぃとより道したのじゃ。
 人名に通じる社なら、きちんとある。
 見よ!!」    

恭平
「田中神社……。
 スタッフに田中さんて人が居るのか?」

キツネ
「んむ!」

恭平
「はあ……。
 この種の選択は今回限りにしておけよ?
 内輪ネタは、個人的にそのスタッフの事を知ってないと、面白さは半減する。
 ユーザーさんが付いてきてくれるか、俺は心配だ」

キツネ
「ワチは天狐じゃ、ぬかりないわ。
 神社まにあのチビスケが喜ぶよう、
 神厩(しんきゅう)つきの田中神社へ連れてきたやったのじゃ。
 神社へ生物を奉納する幣馬獣進は久しく廃れ、今では馬や鳥の彫像が、神厩に置かれるばかり。
 じゃが、田中さんは、なかなか見どころがあるのじゃ」

恭平
「なんだと!?
 それじゃ生きてるのが、神獣が此処に居るのか!
 ぃやっほー! 一体どんな建物で飼われてるんだろうっ」

 だだだだだだだだだっ ←恭平が境内へ走る音

キツネ
「ふっ、チョロい」    

恭平
「……。
 たしかに、生きてる鳥だ。ものすごく珍しい。
 ………。
 だけど……だけど、なんて事ないただの実用的な檻じゃないかコレ」

キツネ
「おおぅ、玉柳稲荷じゃ。
 ワチと同じく樹木にまつわり、あもを守る神の使いじゃ」

恭平
「……つまり、キツネは、ここへ詣でたかったんだな。
 今回は、俺が喜びそうなものは無しか……」

キツネ
「ふむぅ……ならば、アレはどうじゃ?」  

キツネ
「なんか隅っこに、ニノキンがおるのじゃ」

恭平
「変な略し方をするんじゃない!」

キツネ
「ほっほっほー、境内で怒るとは無粋なチビスケじゃ。
 どぅれ、田中さんを堪能したところで、最後の社へ行こうかの」

恭平
「いいだろう。今回は妙に疲れた、はやく終わりたい」

キツネ
「んむ……」

恭平
「………? どうした? 次の場所は何処だ?」

キツネ
「困った事に、それが決まっておらぬ。
 ねくすとん社長・闇将軍と同じ名前の神社へ……。
 ……との事じゃがのぅ、『悪』や『呪』を冠した神社は数多あるが『闇』は不明じゃ」

恭平
「任せろ。
 俺は似たようなところを知ってる」    

恭平
「大将軍神社だ」

キツネ
「チ、チビスケよ、かなり違わぬかや?」

恭平
「昔、この辺りは鵺の森と呼ばれてたそうだ。
 大将軍神社は都を護り、邪霊の侵入を防ぐ鬼門的な役割を担っていたんだろう。
 魑魅魍魎スタッフが跋扈する、ゲームメーカーの長には相応しい神域だ」

キツネ
「かなり強引な解釈じゃのう……」

 みし…、みしみし……
           ぶちっ
               ぷいぃ〜〜ん……

恭平
「う……銀杏を踏みつぶしてしまった」

キツネ
「ぶみぃ!?」    

キツネ
「境内のそこら中に、堪えがたい臭気がたちこめておるのじゃ」

恭平
「樹齢八百年の、銀杏のご神木だからなぁ。そりゃ秋にはこうなるさ。
 キツネ、臭いを我慢して採って帰ろう。
 茶碗蒸しに入れると美味しいんだ」

キツネ
「そういうのは、チビッコ(彗佳)とやってたも。
 梓(由美)が料理する係で、ワチは食べる係じゃ」

恭平
「……」

 ひょいっ
 すりすりすりすり!


キツネ
「こりゃーーーっ
 天狐の九尾に、銀杏を擦りつけるとは何事じゃーーーっっ」

 どろろ〜ん    

キツネ
「ぬんっ、ワチ脱出!」

恭平
「ここは……?」

キツネ
「笠杉稲荷大明神じゃ。
 キツネつながりで、咄嗟にここへしか飛べなんだ。
 どうじゃ? 大将軍の勇ましさも良いが、田畑のなかにたつ社も趣があろう。
 大木と稲荷、典型的な鎮守の森の佇まいじゃ」

恭平
「あ! 手水舎がある。指を洗わせてもらおう」

キツネ
「まったく、酔狂の欠片もないチビスケじゃのぅ。
 己に臭気がつくのも省みず、ワチに嫌がらせするのはやめてたも!」

恭平
「うるさい黙れ。
 ゲーム内じゃ、キツネは俺にもっとひどい事してるくせに!」

キツネ
「それはチビスケが、ちゃんと恩返しさせてくれぬからじゃ」

恭平
「よし、それじゃ神社探訪の取材火を工面してくれ。
 それが俺の願いだ」

キツネ
「こんっ!
 ワチが温泉郷で取材費を使い込んだ件、まだ覚えておったのかや?」

恭平
「当然だ。
 爽やかな星稜高原でバイトしてるが、俺の中学時代のアダ名は『ヘビ』だ」

キツネ
「んむむ……和田神社の白蛇殿とは、雲泥の差じゃの。
 わかったのじゃ、来週は金運を得るべく神社をまわろうではないか」

恭平
「金運て……結局、運頼みなのか……」


♪知ってる神社を〜、歩いてみたら〜
        ♪秋口なのに〜 陽灼けしたよ〜

 ………………。
 …………。
 ……。
 続く?



かいたひと/しゃしん:中本穂積


Powered By SCORE【しゅこあ!】