<第六回>

♪知ってる神社を〜、歩いてみたい〜
     ♪どこか近場で〜 (取材を)すませたい〜


キツネ
「んむ、はやいもので探訪こんてんつも六回目じゃ。
 六と言えば、人の六根は―――」

恭平
「ぶるぶるぶるっ」

キツネ
「こりゃチビスケ、冒頭から、なにを震えておるのじゃ?」

恭平
「さ、寒い。
 いきなり空っ風が吹いて冷え込んできた。
 今回は参拝とりやめて、有馬温泉につかるだけにしよう」

キツネ
「爺むさいのぅ。
 要はぬくくなれば良いのかや?
 おすすめの霊境があるのじゃ、ついてまいれ」

 ずるずるずるずるずるぅ〜
   

キツネ
「ぬんっ、日向大神宮じゃ。お陽様ぽかぽかじゃ!」

恭平
「もしもしキツネさん? えらい曇ってるんですが?」

キツネ
「案ずるでない。天狐がお参りに来たのじゃ。すぐにお天道も顔を出そう。
 なんと言ってもこの社は、天の岩戸に通じておる。
 本宮より、山肌を数間ゆけば―――」

   

恭平
「なんだ、この秘密基地は?」

キツネ
「ほっほっほー、戸隠神社じゃ。
 この穴ぐらを通り抜ければ開運厄除まちがいなし!
 変な女難の相が出ておるチビスケに、相応しいのじゃ」

恭平
「女難のせいにするんじゃない。キツネの恩返しが原因だ。
 だが、それはそれとして、せっかくなのでくぐり抜けておく!」

 てくてくてく
 くぐり、くぐり、くぐり……

   

 ざざざぁーーーーー

恭平
「……雨が降ってるぞ、キツネ?」

キツネ
「こんっ、非難がましい目で見るのは止めてたも。
 ワチは力が快復しておらぬと言うておろう?
 晴天ではなくキツネの嫁入りになったらしいの」

恭平
「たしかに西の空には雲が無い。
 そのうち天気雨になるだろう」

キツネ
「ふむぅ、濡れた身体をあたためるには、温泉が一番なのじゃ」

恭平
「わ、わざと雨を降らせたんじゃなかろうな、キツネ?」

キツネ
「てひひひひ」

 …………。
 ……。
   

キツネ
「有馬温泉郷じゃ。
 その昔、太閤秀吉がこの地で湯浴みを欲し、
 そこらへんの地面を杖で突っ付いたら、温泉が噴き出してたそうじゃ」

恭平
「う、嘘くさい」

キツネ
「……。
 ………。
 ……おおぅ! よい湯饅頭、温泉パン、もぐもぐもぐ。
 炭酸煎餅、有馬ラーメン、むしゃむしゃむしゃ。
 お新香いっぱい、もぎゅもぎゅもぎゅ。
 けぷっ!
 チビスケ、お代払ってたも」

 

恭平
「ふぃ〜、足湯って気持ちいいなぁ〜」

キツネ
「露骨にまったりするでないわ!
 もっと若々しくしたらどうじゃ?」

恭平
「神社探訪そのものが、渋すぎると思うぞ?」

キツネ
「否、ここは清泉奇石の温泉郷ゆえに、
 童心に戻れる神社がたくさんあるのじゃ」

   

キツネ
「まず手始めに有馬稲荷神社じゃ。
 チビスケ、運転してたも」

恭平
「これは……よく農園に敷設されてるモノレールだな。
 参拝客が勝手に乗っていいのか?」

キツネ
「知らぬ。
 じゃがワチの姿は常人には見えぬじゃろう?
 見つかっても叱られるのはチビスケ一人じゃ。ほっほっほー」

恭平
「乗らない」

キツネ
「本当か? 本当かや?
 まともに登れば、何百段もの石段をゆく事になるのじゃ。
 実は乗ってみたいのではないかや?
 きっと楽しいのじゃ。ほ〜れほ〜れっ」

恭平
「ぐ……!」

 

 うぃーん、うぃーん、うぃーん

恭平
「結局、乗ってしまった……」

キツネ
「きゃっきゃっきゃ! 古松老杉が良きかざじゃ〜」

 

恭平
「社頭に着い―――」

キツネ
「もっぺん乗せてたも! もっぺん乗せてたも」

   

 うぃーん、うぃーん、うぃーん
    うぃーん、うぃーん、うぃーん


恭平
「やばい……だんだん楽しくなってきた……」

 

恭平
「社頭に―――」

キツネ
「もっぺん、もっぺん!!
 チビスケには、まだまだ幼心を取り戻しておらぬ」

恭平
「……待て、単にキツネが遊びたいだけだろ?」

キツネ
「失敬な! 高潔優美な社をチビスケに堪能させつつ、
 その子汚い身に清浄をもたらさんとする、ワチ一流の心意気じゃ」

   

恭平
「小難しい単語はともかく、たしかに気分は爽快だな。
 山の上の稲荷神社で、眺望はいい。
 名前は……射場山か。
 御弓の神事がある星稜高原に通じるな、境内に舞台もあるし」

キツネ
「んむ、天に近い場所は、好ましい。
 もともとは、有馬字杉谷に造営されたお宮じゃったが、
 古長大神(フルオサ)と恒長大神(フルオサ)の導きにより、山頂に移ったのじゃ。
 ま、堅苦しい解説は抜きにして、チビスケを若返らせるべく、麓を巡ってみようではないか」

 

 --------ビシィ!

恭平
「痛で!?
 ど、どうして俺に小石をぶつけるんだ?」

キツネ
「てひっ、手元が狂ってしまったわ。
 ここは湯山稲荷大明神。鳥居の上に礫を乗せる、一種の願掛けじゃ」

恭平
「棟木にあげられた小石は、どこの神社にも見られるだろ?
 ここが特別なわけじゃないだろうが……おや? 随分と低い鳥居だな。
 ちいさな子でも、ちゃんと乗せられるように……か?」」

キツネ
「然り」

 ぽいっ!
    ひゅーーーん
       −−−−−−−−−−ドカッ


恭平
「ぐはっ」

キツネ
「ふむぅ、ワチは理を弁えた偉大な神吏じゃからのぅ。
 無邪気な子供のように、上手くはゆかぬか」

恭平
「こ、この不器用キツネ!」

キツネ
「ほっほっほー、その怒気を検証するのじゃ」

 

キツネ
「妬泉源じゃ」

恭平
「この穴は一体? 井戸か?」

 

キツネ
「その穴ぼこは間欠泉じゃ。
 嫉妬深い者がこの祠の傍に立つと、煮えたぎった湯が噴き出してくるのじゃ」

恭平
「……。
 ………何の反応も無いぞ?」

キツネ
「淡白なチビスケじゃのぅ。
 そんなじゃから、微妙な三角関係になってしまったのかや?」

恭平
「いや、俺は―――」

キツネ
「飾らぬ想いは、愛情とともに時に憎悪も生もう。それが自然じゃ」

恭平
「そ、そそ、そのあたりは本編をプレイしてからのお楽しみって事だ」

キツネ
「むにょ? うまく逃げられてしもぉた。
 やれやれ、ならば次の神社で、チビスケと娘子等との結びを硬くするのじゃ」

 てくてくてく
   

キツネ
「湯泉神社じゃ。
 この社殿は温泉街の中央に位置しておってな、温泉の守護神として敬われておる。
 神代の昔、この社の祭神である大己貴命・少彦名命が薬草をさがして、この山に分け入ったのじゃ。
 その時、傷ついた三羽のカラスが赤い水を浴び、傷を癒しているのを見目撃し、ここ有馬温泉を発見し、今に至っておる。
 この二神を祀る信心深さからも、温泉郷の由緒が伺えよう」

恭平
「……秀吉はどうした?」

キツネ
「それはそれ、これはこれじゃ」
   

キツネ
「ふむぅ、社務所は休憩中かや。
 アレのお守りを買いたいのじゃが、これでは叶わぬの。
 社の中も閉扉されてお姿が見えぬ」

恭平
「アレと言うと……温泉絡みで、やはりソレか?」

キツネ
「ナニじゃ」

恭平
「そ、そうか……」

キツネ
「ちんこ御護じゃ」

恭平
「ズバリぶっちゃけるんじゃない! 玉鉾様と言え!
 それに、俺はもうちんちんネタで愉悦にひたる歳じゃない!」

キツネ
「ちなみに女子用に、この神社では―――もがぁっ!?」

恭平
「次だ! 次へ行くぞ! 俺を子供のように喜ばせてくれっ」

 だだだだだだだだだっ
 ↑キツネを捕まえ、口を塞いで全力疾走している

   

 しゅんしゅんしゅんしゅん……

キツネ
「有馬天神社とは、良いところを選んだではないか。
 建築にしか興味がないチビスケも、神について学ぶ気になったのかや?」

恭平
「い、痛い、手が……!
 ここ以外に行こうとしたら、キツネがガブリと噛みつきやがった。
 恩人の俺に対して、なんて酷い九尾だ」

キツネ
「んむ、天神社の名が示すとおり、もとは京都北野天満宮より勧請した学問の神じゃ。
 しかれども、この温泉郷はその立地から天災に見舞われやすい。
 この神社は温泉鬼門除け守護神として奉祭されておる」

恭平
「都合の悪い事はスルーして、勝手に喋ってる……」
   

 しゅんしゅんしゅんしゅん……

恭平
「ああ〜、98度か。あったかいなぁ〜」

キツネ
「ワチのウンチクを聞いてたもーっっっ。
 このデレスケめ、天神泉源の湯煙で、暖をとるでないわ!」

恭平
「いや、あんまり縁起ばかり語ってると、ユーザーさんがついてきてくれないだろ?
 手の咬み傷も治したいし、そろそろ温泉にはいってくつろごう」

 ………。
 ざっぷーん
 ……カポーン!
 「くはぁ〜ん」
 ……。
 …………。


恭平
「さあ、帰るとしよう」

キツネ
「年齢よりも、遥かに老成したチビスケめ。
 ついに童心に戻せなんだ」

恭平
「そうケジメをつけて考えてなくも大丈夫だろ。
 大人は子供が成長した姿―――あっ!? あの自動車は!!!」

キツネ
「んむ? めいぷる荘のみにかーに似ておるが、微妙に違うの?」

恭平
「メッサーシュミットKR200バブルキャノピーだ!
 わーい、わーい
 きゃっほー!」
   

 パシャ、パシャ、パシャッ

キツネ
「チ、チビスケ?」

恭平
「ほふぅ、有馬に貴重な車輛が保存展示されてるとは、知らなかった」

キツネ
「ワ、ワチが散々苦労して童心に戻せなんだのに、
 こんな妙チクリンな車を見た途端、子供のように目を輝かせおって……」

恭平
「すごく満足した!
 キツネ、そのへんの居酒屋にはいって一緒に白乾を飲もう!!」

キツネ
「チ、チビスケが壊れたのじゃ、
 なにを言うておるのやら分からぬ。雨の午後はヤバすぎるのじゃ!」

恭平
「不満か?」

キツネ
「当たり前じゃ。
 今回はチビスケ優先で巡ったからの、稲荷分が少なすぎるのじゃ」

恭平
「よし、それじゃ締めはあそこだな」

 てくてくてくてく……

 てくてくてくてく……    
恭平
「満足稲荷神社だ。
 思う存分、心ゆくまで満足してくれ」

キツネ
「ぶみっ。
 何故このこんてんつは、こんなぱたーんばっかりなのじゃ?」

恭平
「ここでその昔、豊臣秀吉が出世を祈願したんだ。
 そして見事成就され、とても満足した。
 だからお稲荷さんに、満足の二文字がくわわってるらしい」

キツネ
「もう充分なのじゃ! 何故ワチ等は秀吉押しをやっておるのじゃ!?
 こんなものでワチは、ワチは……。
 ………」
   

キツネ
「む、むにょにょ?
 ………。
 ……。
 ほっほっほー、どういうわけか満足したのじゃ!」

♪知ってる神社を〜、歩いてみたら〜
         ♪意外と楽しい、発見多い〜

 ………………。
 …………。
 ……。
 続く?



かいたひと/しゃしん:中本穂積


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