<第四回>

♪知ってる神社を〜、歩いてみたい〜
     ♪どこか近場で〜 (取材を)すませたい〜


由美
「カメラの準備ええ? ほな、行こか」

キツネ
「あ、梓? 何故お主が? チビスケはどうしたのじゃ?」

由美
「恭ちゃんは音声収録のお手伝いで余所いっとぉやんか。そやからウチが代打やよ」

キツネ
「ふむぅ、本編ではワチの姿は娘子等には見えぬのじゃが……。
 まあ良かろう、なにせ体験版でも―――
 ぶみぃっ!?
 ほっほっほー、詳しく知りたければ体験版をプレイしてたも


由美
「アンタなに一人でノリツッコミしとん?」

キツネ
「ゆーざー諸兄がついてきておるのか、イマイチ分からぬこんてんつじゃが、一応は営業しておかねばの。
 しかも最近は稲荷分が不足しておる。
 そんな訳で今回は………」

  

キツネ
「森北稲荷神社からいってみるのじゃ」

由美
「そ、そのまんまやね」

キツネ
「ワチと同じくこの地の稲荷もまた人と共にある。
 霊亀元年卯月卯日、この地の沖合に闇夜を照らす光があらわれたのじゃ。
 それこそ稲荷の神霊であり、以後、この社に鎮まり五穀豊穣の役目をになっておる」

由美
「なんやかんや言うて、お稲荷さん同士で自慢してへん?」

キツネ
「否、とどのつまりはキツネではなく人が要じゃ。
 ここに伝わる二編の詩を見よ。
 『卯月卯の日に卯の花祭の夏のしるし面白や』
 『卯の葉祭りには柴の葉が御肴生血を見ねば納まらぬ』」

由美
「なんなん?」

キツネ
「んむ、心にとどまったのなら何よりじゃ。性急に学ばずともよい。
 やがて仮巫女から一人前の神職へと成長すれば、梓にも分かる」

 

キツネ
「ちなみに社頭よりやや離れた住宅地に、森北稲荷一の鳥居があるのじゃ。
 近代においては、この朱色が先の詩に通じよう」

由美
「???
 キツネらしい物言いやけど、難しすぎるから次のとこはウチが案内してええ?」

キツネ
「委ねた。
 (より具体的に知りたくば、くりっりしてたも)」


 てくてくてく
  

由美
「はい、弓弦羽神社やよ」

キツネ
「おおぅ、これは良い森じゃ。清々しい神域ではないか。
 して梓よ、縁起は?」

由美
「なんか大昔に偉いさんが武具を奉納したとか、せんかったとか……」

キツネ
「なんという頼りない説明じゃ」

由美
「ええやん。
 ウチは弓を使ぉた神儀の修行しとぉから、弓つながりで来たかってんよ」


 てくてくてく
  

由美
「弓弦羽神社から旧街道沿いに西のほうへ歩いたら、弓場八幡神社に着くわ」

キツネ
「弓が二連発かや? 弓龍稲荷も祀られておるようじゃが……」

由美
「ちゃうちゃう。
 ここは名前は残っとぉけど、今は御弓神儀が行われてへんねん。
 明治維新からこっち急に途絶えてもぉてんて。
 もうやり方知っとぉ人おれへん」

キツネ
「珍しい事ではないのじゃ。
 武家社会から世相が変化してしまったからの。
 あの頃はなんでもかんでも廃止し、失われたものは多い」

由美
「お母さんもそう言うとったわ。
 ほんで戦争で書物なんかが焼失して、ますます分からへんようなってもぉたて」

キツネ
「ふむ……。
 梓はきっと、先代の星巫女を越える逸材となるのじゃ」

由美
「くふふふふ、おーきに」

キツネ
「将来性はともかく、今はあまりに小物で安直じゃがの。ほっほっほー」

由美
「な、なんよ、キツネかて似たようなもんやないの。
 ほんなら―――」

  

由美
「大物主神社はどない?
 お参りしたら、ウチら大物になれそうやん?」

キツネ
「あ、安易すぎて涙が……。
 なんというか、さすがはチビスケの従兄妹じゃ」

由美
「うみゃ……ゆ、弓がらみはもうやんぴやよ。
 その証拠に―――」

  

由美
「趣向を変えて楠霊神社はどない?」

キツネ
「同じじゃ! 私情まるだしではないか!
 見事なご神木じゃが、ただ単に梓の名字が『楠木』じゃから、ここを選定したのじゃろう」

由美
「ちゃうちゃう前フリやん」

キツネ
「むにょ?」

 

由美
「楠稲荷大神。
 これやったらウチもキツネも満足やわ」

キツネ
「はて……妙に強い想念を感じるのぅ。
 往来を半分遮ってまで、道のド真ん中に鎮んでおるとは、一体いかなる稲荷じゃ?」

由美
「この楠は『市民の木』に指定されとぉねんよ」

キツネ
「答えになっておらぬ。
 ……さては知らぬのじゃな?」

由美
「な、なんよ、ほんなら自分で訊いたらええやん」

キツネ
「んむ」

 

キツネ
「……」

由美
「どないしたん?」

キツネ
「梓よ、探訪を続けよう。次なる神社へ参るのじゃ。
 この稲荷の棲処は半ば樹と同化しておる。
 下手に覗かず、このままそっとしておこうではないか」

由美
「あ……ほんまやね、あと二十年もしたら完全に幹の一部になってまうわ」

キツネ
「では、ここはのーかうんとじゃ。
 ワチと梓に相応しい神社に連れて行ってたも」

由美
「みゃ……?
 ええーと、ううーんと……」

 てくてくてくてく

  

キツネ
「ほほぅ! 稲瓜神社とな?」

由美
「うん、見てみ。
 柱のとこに、ごっつい立派な弓矢が立てられとぉやろ?」

キツネ
「壮観じゃ!
 して、稲荷は?」

由美
「どっかそのへん」

キツネ
「もぎょっ
 あ、あんまりじゃ……!」

由美
「嘘やて。
 ここやのぉて、射場八幡神社やったらお稲荷さんあるから。多分」

キツネ
「多分?
 んむむ、ならば最後にもう一社だけ付き合うかの」

由美
「ほな、ついといで」

 てくてくてく
 …………。
 ……。
 …………。
 うろちょろ、ウロチョロ
 ……。
 …………。

キツネ
「梓よ、先刻からおなじ所をグルグルまわっておらぬか?」

由美
「……アカン、迷子なってもぉた。
 いっぺん稲瓜神社まで戻って、出直そ」

キツネ
「この未熟者め!」

 もどりもどりもどり……。

  

由美
「にゃっ!? 縁日の準備しとぉね」

キツネ
「ほっほっほー! お店じゃぁーーーー!!」

すすすぅ〜〜〜〜〜 ←キツネが屋台に急降下する音

キツネ
「たこやき、お好み焼き、すてーき串、ちょこばなな」

キツネ
「ちょお待ちぃ! 奢ったれへんで!
 アンタ、人間のお金持ってへんやないの!」

キツネ
「やきそば、わた菓子、りんごあめ、みかんあめ!
 つぼやき、ふらんくふると、すずかすてら!
 パクパクパクパク、むしゃむしゃむしゃむしゃ」

キツネ
「ウ、ウチが払うん?  ちょお……ちょおぉーーーーっっ」


♪知ってる神社を〜、歩いてみたら〜
  ♪意外としんどい〜 一日仕事〜

 ………………。
 …………。
 ……。
 続く?


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・『卯月卯の日に卯の花祭の夏のしるし面白や』
 この地に暮らす人々の平穏な日常が詠まれています。

・『卯の葉祭りには柴の葉が御肴生血を見ねば納まらぬ』
 しかし、氏子が多く地車(だんじり)を出す祭典ゆえか闘争も起きました。

 また朱色の大鳥居は、戦時中、空襲時に格好の目標となったそうです。
 同様の事例は日本各地に見られると思います。
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かいたひと/しゃしん:中本穂積


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