<第三回>

♪知ってる神社を〜、歩いてみたら〜
     ♪取材費いつも〜 自腹だぁよぉう〜


キツネ
「おキツネ神社探訪第三回じゃ。
 んむぅ……なにやらテーマソングの歌詞が微妙にしょっぱく変わっておるのぅ」

恭平
「いや、それより―――」

 ガタン、ガタンゴトン
   ゴトン、ガタガタ!


恭平
「探訪場所は播磨か……今回は電車で遠出するんだな」

キツネ
「片道小一時間ではないか、充分にご近所じゃ。
 東京なんぞは何処へゆくにも電車を乗り継いで一時間かかるんじゃぞ」

恭平
「相変わらず妙に生活感あふれるキツネだ」

キツネ
「稲荷は人と共にあるよってにな。
 ともかくワチはひと眠りするのじゃ、着いたら起こしてたも。
 くわはぁ〜ん(←アクビ)」

恭平
「別に構わないが、なんでまた播磨を?」

キツネ
「んむ、『おキツネsummer』の広報の偉いさんの名字が播磨なのじゃ。
 社務所でお守りとか買ってきて贈呈し、ゴマをすっておけば、
 きっとワチ等の事をもっと宣伝してくれるのじゃ」

恭平
「前回とおなじパターンじゃないか、それ!」

 ガタンガタン、ゴトンゴトン
   ゴトンガタン! ガタタ、ガタタ!

 …………。
 ……。

 (一時間ちょっと経過)

 プッシュゥ〜 ←ドアが閉まる音
 ゴトンゴトン、カタンガタタン…… ←電車が遠ざかってゆく音

キツネ
「むにょ……?」

恭平
「さあキツネ、そんなわけで網干についたぞ」

キツネ
「こ、このデレスケめ、寝過ごすとは何事じゃ!」

恭平
「播磨と網干。
 たとえるなら東京から鎌倉を目指していたが、うっかり藤沢まで行っちゃったから、
 この際江ノ電に乗って小旅行と洒落こもう、と……そんな感じだ」

キツネ
「首都圏はもういいのじゃ!」

恭平
「引き返すにしろ、次の電車までかなり時間があるんだ。
 観念して今日の探訪は此処にしとけ」

キツネ
「ふむぅ、まあ良かろう。
 歴史ある街ゆえ、古きを訪ねて新しきが知れるやもしれぬ。
 手始めにお稲荷さんから当たるのじゃ」

 ………。



キツネ
「駅から徒歩十五分で衣掛稲荷―――」

恭平
「真隣に洋館が建ってる!
 ひゃっほー! 近代建築だ、ダイセル異人館だ!
 チューダー様式にアメリカン・コロニアルスタイルが見え隠れする建築技法がたまらん!!」

キツネ
「チ、チビスケ?」


   

 パシャパシャパシャパシャ

キツネ
「なにやら第一回目と似ておるのぅ……」

恭平
「ふぅ、満足した。  じゃあ帰ろうかキツネ」

キツネ
「まだはじまったばかりじゃ!
 もしやワザと播磨を素通りして、最初からこの地へ来るつもりだったのではあるまいな!?」

恭平
「ご明察、と言ったら……?」

キツネ
「ぶみっ。
 ほ、ほっほっほー、かくなる上は存分に探訪させてやるのじゃ。ついて参れ」

 すすすぅー… ←キツネの飛翔音
 てくてくてく ←恭平が歩く音


 

キツネ
「三石天満宮じゃ」

恭平
「へぇー、滑り台に鉄棒があるじゃないか。
 公園を兼ねた境内なんて微笑ましいな。
 おや? あのビニールシートで覆われた部分は―――」

キツネ
「ほれほれ、次へ向かうのじゃ」

恭平
「は、はやいな……」


 

キツネ
「金刀比羅神社へ着いたのじゃ」

恭平
「ここにもシートが―――」

キツネ
「次じゃ次じゃ」

恭平
「お、おいっ」


   

キツネ
「網干神社じゃ」

恭平
「あれ? 境内に随分と立派な土俵があるな。
 ひょっとして、今まで見てきたビニールシートの下には土俵が?」

キツネ
「然り。
 ワチ等天狐の神儀は梓弓を用いるが、ここらでは相撲なのじゃろう。
 どぅれチビスケ、ワチとひと勝負せんか?
 否、決して姑息な仕返しではないのじゃ」

恭平
「断る。
 変な玉に寝そべって浮かんでるキツネのほうが、圧倒的に有利だ。
 神聖な神の使いならば、正々堂々と試合を挑んでこい」

キツネ
「んむ、よい質問じゃ。
 ここらの民草にとって、相撲がどれほど大切なものか、検証するとしよう」

恭平
「耳に痛い言葉をスルーするんじゃない!」

キツネ
「てひひひひ」


 

キツネ
「船渡八幡神社じゃ。
 その名が示すとおり港にちかい。
 土俵が据えられた社も、すべてこの一帯に在るのじゃ」

恭平
「おもしろいな、手水舎が井戸になってるのか。
 さっそく―――」

キツネ
「ワチが先じゃ、チビスケは清水を汲んでたも」

恭平
「キツネは、夏合宿のメイプル荘でも一番風呂が好きだよな」

 ぎこぎこぎこぎこ
 ……どばしゃしゃああぁぁ〜


キツネ
「ふおうぅ〜、冷たくて気持ちいいのじゃ」

恭平
「よし、交代してくれ。次は俺の番だ」

キツネ
「知らぬ。
 ワチはお賽銭いれてくるのじゃ」

恭平
「こらー! 勝手に俺の財布とカメラを持っていくな!」

キツネ
「ほっほっほー」

恭平
「……。
 キツネ……、
 まさか今日一日、俺を引きずりまわす算段じゃ……?」

 

 パシャッ

キツネ
「チ、チビスケよ、おーぶが写ったのじゃ。
 左下に謎の球状物体が……ぶるぶるぶる、がくがくがく」

恭平
「たまたま飛んでた蚊に、フラッシュが反射しただけだ」

キツネ
「な、なんというノリの悪い男じゃ。
 次の場所で驚くがよい」

 てくてくてく
 がさごそ、がさごぞ……


 

恭平
「え、えらく狭い路地裏を通っていくんだな。子供の頃の探検みたいだ」

 

キツネ
「大江神社じゃ」

恭平
「こりゃまた小ぢんまりしたところだな。
 完全に住宅街の谷間に埋もれてるぞ」
キツネ
「確かに境内に土俵はないが、ここもまた磯の香りがする社。
 ちゃんと代わりがあるのじゃ」

恭平
「拝殿の前に舞台……じゃなくて、休憩所がくっついてる構造か?
 ご近所の井戸会議の場所なんだろうな。
 俺達も休もう。
 え、どっこいしょ……っと」

キツネ
「おっさんくさいのぅ」

恭平
「……???
 どうして、何枚も絵が掲げられてるんだろ?」

キツネ
「チビスケ、そこは和合の席じゃが土俵の役を成さぬ。
 こっちじゃ」


 

キツネ
「すぐ傍の広場にきちんと在るのじゃ」

恭平
「ここは公民館か?
 今まで見たきた中で一番立派だ」

キツネ
「んむ、ここは二つの習わしが融合しておる、貴重な神域じゃ」

恭平
「ふたつ?」

キツネ
「その目で確かめるがよい。ここからが本番じゃ」

恭平
「待て、そろそろ休ませてくれ。
 ここまで強行軍だったんだぞ」

キツネ
「問答無用。
 ワチは恩返しをして、チビスケの学識を高めてやるのじゃ。
 コーーーーーーーーーーーンッッ」

恭平
「そんなの頼んだ覚えはない!
 ああっ、脚が勝手に……っ」

 てくてくてく

キツネ
「ふぃ〜、よっこらしょ」

 へろへろろ〜 ぽっふん

恭平
「俺の頭の乗っかって憩うな!」


 

キツネ
「大江武大神社じゃ」

恭平
「はあ、はあ、はあ……」


 

キツネ
「専稲寺稲荷神社じゃ」

恭平
「足の裏が痛い……」


 

キツネ
「平松春日神社じゃ」

恭平
「もう潮の気配はないな。随分と丘を進んできた」


   

キツネ
「魚吹八幡神社じゃ、このあたりで最も大きいのぅ。
 さあ、次じゃ」

恭平
「い、いいのか?
 こんな雄渾な神社を、そんなあっけなく通りすぎて?」


   

キツネ
「二神社じゃ。
 ……。
 ええーい、このデレスケめ、いい加減に気づかんか!」

恭平
「何をだ?
 土俵は見なくなったが、
海を離れた神社では拝殿の前にかならず舞台が建てられてて、絵が何枚も飾られてるって事か?」

キツネ
「分かっておったなら、さっさと告げてたも」

恭平
「俺が意見する間もなく、キツネが先導したんじゃないか。
 それに建築の共通性は実感したが、肝心の絵は俺にはさっぱりだ。
 年代物もあれば、つい最近飾られたものもあるし、描かれている無いようにも規則性がない」

キツネ
「それだけ見えておれば充分じゃ。
 人は星の数ほどおる。同じ者なぞおらぬ。
 この絵もそうじゃ。
 人が祈願し、成就された暁に、自ら絵を描き奉納する……心さえ込められておれば、絵柄は自由じゃ」

恭平
「たとえるなら、お稲荷さんの鳥居ようなものか?
 人が多く住んでる地域じゃないと、成り立たない風習だな」

キツネ
「やけに物分かりがいいのぅ、チビスケ?
 いつもワチに食ってかかるのに、素直すぎやせぬか?」

恭平
「い、いや、それは……」


 

キツネ
「じゃがのぅ、いくら堅苦しい戒めはないとはいえ、この絵は―――」

恭平
「こ、こら!!」


 

キツネ
「龍神というかシェンロ●というか……」

恭平
「このド腐れキツネ!
 大人の事情を察しろ!
 俺が必死で触れまいとしていた厳然たる事実を言及するんじゃない!!!」

キツネ
「のぅ? ワチは思うんじゃが……。
 試しにモッキーマウスの絵を奉納すれば、デズズズズニーランドは―――」

恭平

「わあー、わあー!!」

 がしぃっ ←キツネを捕縛
 だだだだだだだだだだだっ ←走り去る
 …………。
 ……。


 

キツネ
「おおぅ、はからずも好ましい社へ辿り着いたのじゃ」

恭平
「うるさい、駅はもうすぐだ、このまま素通りしてやる」

キツネ
「止めはせぬが、この琴平神社に詣でてからでも遅くはなかろう?
 この辺りで、もっとも風雅な造りじゃ」


 

恭平
「勧めてくれるのはいいが……
 町中にある、ごくありきたりな小さい神社に見えるぞ。
 舞殿も特殊な構造じゃないし、絵が多いわけでもない」

キツネ
「ほっほー、チビスケ、たまには天に目をやるがよい」


 

恭平
「屋根瓦すべてに一様の意匠が……『金』?」


 

キツネ
「んむ、コンピラさんの金じゃ。
 天狐の慧眼によれば、四国で焼かれた本物じゃ。
 今日ではこれを作れる職人は残っておらぬであろう」

恭平
「迂闊だったな、こういう鑑賞の仕方は知らなかった。
 次からはもっと視点を変えてみよう」




キツネ
「時にチビスケ、いっそこのまま四国まで探訪せぬか?
 かの地は山海の珍味に満ちておると聞く、じゅるり」

恭平
「……いいぞ?」

キツネ
「まことかや!?」

恭平
「このさき二カ月間、俺達の昼食と晩飯を抜けば、旅費が捻出できる」

キツネ
「……」

恭平
「………」

キツネ
「電車が来る時間じゃ、去ぬとしよう」

恭平
「そうだな」

♪知ってる神社を〜、歩いてみたい〜
  ♪どこか近場で〜 (取材を)すませたい〜

 ………………。
 …………。
 ……。
 続く?


かいたひと/しゃしん:中本穂積


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