<第二回>

♪知ってる〜、神社を〜、歩いてみたい〜
     ♪どこか近場で(取材を)すませた〜い〜




恭平
「暑い……」

キツネ
「第二回目にしてはやくも我が道をいってる感タップリの『神社探訪こーなー』じゃ」

恭平
「秋口なのに何だ、この陽気は?
 ……いや、歩道に日除けがないから、直射日光をモロに浴びてるんだな俺達は。
 てゆーか視界内に誰も歩いてない。その代わり車がビュンビュン走ってる」

キツネ
「それもこれも、チビスケが自動車を持っておらぬからじゃ」

恭平
「うるさい黙れ。キツネは俺の頭に乗っかって横着してるじゃないか」

キツネ
「ほっほっほー、ワチは案内役の重責を荷なっておる。肉体労働はチビスケの領分であろう」

恭平
「??? ひたすら歩いてきたが、まだ疲れてないぞ?
 山間だけど道はちゃんと舗装されてるしな」

キツネ
「んむ、この辺りはチビスケが生まる遥か以前より、民草が往来しておる地。
 神仏混淆の風情が色濃く残された社が点在しておる。
 ……んむむ、なに倉時代からじゃったかのぅ?」

恭平
「なにくらって……鎌倉時代しかないだろ?」

キツネ
「おおぅ! 思い出したのじゃ、室町時代じゃ」

恭平
「それ、倉は関係ないじゃないか!」

キツネ
「とにかく見ておいて損はないのじゃ
 そこまっすぐいって、ちょっと右に曲がって、道なりに暫く行って最後は左に折れてたも」

恭平
「な、なんて大雑把な案内なんだ……」

 ……。


キツネ
「『六條八幡宮』に着いたのじゃ。とくと見よ」

恭平
「山裾にある、ごく普通の社殿に見えるが?」

キツネ
「境内の三重塔があるではないか、あれこそ神仏の名残り。
 真正面のあんぐるではなく、ななめから撮影するのじゃ」

 パシャ


キツネ
「このデレスケめ、反対側じゃ!」

 パシャッ


キツネ
「てひひひ、どうじゃ?  右っかたにチラッと見えておる。  建築に興味があるチビスケにはたまらんじゃろう?」

恭平
「ああ、素晴らしい神楽殿だ。キツネがいた星稜高原の神社に匹敵するじゃないか」



キツネ
「ぶみっ!? と、塔はどーでもいいのかや?
 この社は昔、神功皇后紀伊の水門より難波の浦(大阪湾)務古の水門に御船を留め給いし時―――」

恭平
「すまん、俺はそのへんの難しい事ぜんぜん分からないんだ」

キツネ
「ぞ、俗物め!」

恭平
「そりゃそーだ。俺は神職の血を引いてるが、修行してないからな。
 今回の取材は楽だった、さあ帰るとするか」」

キツネ
「まだ済んでおらぬ、道中に道草を喰っただけじゃ。今回のめいんは『坂本丹生神社』じゃ」

 …………。
 ……。


恭平
「キツネ、鳥居だけで神社なんか何処にもないぞ?」

キツネ
「否、これは一の鳥居にすぎぬ。
 参道を進めば、ほどなく社殿に到着しよう。
 ちなみに、あのへんじゃ」



恭平
「……」

キツネ
「………」

恭平
「……帰らせてくれ、頼む」

キツネ
「ならぬ、『坂本丹生神社』へ参拝するのじゃ。
 『おキツネsummer』のスタッフの偉いさんの名字が坂本なのじゃ。
 社務所で坂本のお守りとか買ってきて献上し、ご機嫌をとっておけば、きっといい事があるのじゃ」

恭平
「セコイ、セコすぎる! キツネのほうが、俺より俗物じゃないか!」

キツネ
「いいから登ってたも。
 この一帯の古社は神仏混淆の聖地ゆえ、おーぶとか心霊現象が撮影できよう。
 しかも清浄に依り、障気の類は皆無じゃ」

恭平
「へぇー、面白そうだな。俺はまだそういうのを撮った事ないんだ。
 よし、行こう!」

 てくてくてくてく


恭平
「……キツネ、それらしいものは何も映らないぞ?
 しかも山道が結構キツイ。あとどれくらいだ?」

キツネ
「社頭までたったの三十六丁じゃ。
 ふむぅ、チビスケの足で、一刻ほどかのぅ」

恭平
「片道二時間だと!?」

 てくてくてくてく
 てくてくてくてくてくてくてくてく



恭平
「ぜーはー、ぜーはー」

キツネ
「んむ、チビスケよ、そこな盤座が見えるかや?」

恭平
「ぜひゅー、げひゅー」

キツネ
「大日如来が祀られておるが、おそらく隣の若王山は無道寺に倣い、後年据えられたものであろう
 盤石は南直しておる。もともとは民草の舞台として―――」

恭平
「ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー」

キツネ
「拝聴してたもー!!」

 …………。



恭平
「や、やっと着いた!
 まったく、どうしてこんな山の上に神社を建てたんだ」

キツネ
「京都の比叡山になぞらえたのじゃ」

恭平
「なるほど、その説明なら俺にも理解できる。  キツネ、もっとガイドを―――」



キツネ
「な、なんという事じゃ! 社務所が休業しておるではないか!」

恭平
「拝殿は……ああ、社務所より更に高台にあるのか」

キツネ
「やれやれ時間の無駄じゃったの……。
 チビスケ、去ぬのじゃ」

恭平
「こらこら、せっかく来たんだ、お参りくらいしていこう」

 てくてくてく。



恭平
「ほう、春日造か!」

キツネ
「どーでもよい」

恭平
「いじけるんじゃない。
 俺だって霊的な写真が取れずにガッカリしてるんだぞ?」

 ……ー…ン、ブゥーー……ン

キツネ
「コンッ!?」

恭平
「こ、この音は一体?」

キツネ
「ぶるぶるぶる、ガクガクガク。
 キーンって耳鳴りがする時は、幽霊が傍におるのじゃ。
 こんな真っ昼間から化けて出るとは、なんという非常識な!」

恭平
「キツネに言われてもなぁ……」

 ブゥーーン、ブィーーーン

キツネ
「むにょ?
 よく聞くと、耳ではなく足元から響いてきよるが……」



恭平
「ぎゃああぁぁぁあ!?

 拝殿に組まれた柱と柱の隙間で、ニホンミツバチが巣を作っている!!」


キツネ
「……チ、チビスケ、なんじゃその妙に解説的な驚きようは?」

恭平
「自慢じゃないが俺は中学時代、ミツバチの巣に奇襲攻撃を仕掛けて、即座に反撃された過去をもつ男だ」

キツネ
「確かに自慢にならぬ」

恭平
「俺はその時すでに刺されてしまった。
 今ここでもう一度ハチの針を受ければ、なんちゃらかんちゃらショックを起こして、ひっくり返る危険がある」

キツネ
「何故そう、重要な部分はいい加減な解説をするのじゃ?」

 ブゥーーン、ブィーーーン

キツネ
「襲いかかって来たのじゃ!」

恭平

「撤収ぅ〜〜っっ」

 だだだだだだだだだだだだっ
 …………。
 ……。




恭平
「今回の探訪は異様に疲れた……腹が減った」

キツネ
「ほっほっほー、麓に美味しいウドン屋があるのじゃ。寄っていこうではないか。
 筋香露ウドンとびーるを、ワチに供えてたも」

恭平
「すじころ?」

キツネ
「伊勢地方のウドンじゃ」

恭平
「ちょっと待て、キツネは星稜高原の神吏で、星稜高原は信州だろう?」

キツネ
「ぶっちゃけ、美味なら何でもよし。
 びーるも大正時代は滋養強壮の薬じゃった。チビスケの心労も癒されよう」

恭平
「今は平成なんだが……」

キツネ
「あと、さいどめにゅーであいすくりんも所望する所存じゃ」

恭平
「そうだな、坂本神社でお守り買えなかったら、持ち合わせはある。
 今回は食道楽を決め込んで、終わりとしよう」

キツネ
「んむ!」

 ………………。
 …………。
 ……。
 続く?


かいたひと/しゃしん:中本穂積


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